会長挨拶

『温存する』 という最小侵襲 / 『多職種で構築する最小侵襲』

中村立一
春江病院 関節温存・スポーツ整形外科センター長

本学会は1995年に第1回が行われ、今回で記念すべき第30回を迎えることとなりました。当初は大きく術野を展開するのが常識の時代で、小皮切手術や内視鏡手術は極めて目新しく斬新なものであったため、本学会はある意味、最先端を走る学会と言えるものでした。しかし近年、整形外科の各分野における内視鏡および周辺機器のめざましい発展により、多くの手術が小皮切や内視鏡を用いた最小侵襲で行われるのが当たり前のようになってきました。こうした背景の中、近年の本学会では「真の最小侵襲とは何か?」を問うテーマが続きました。そこで今回は、その問いに対するの私なりの解答を出そうと考えました。

当院は2016年、福井県坂井市の田畑に囲まれる心地よい地区に移転・新築されました。2018年4月には小生のライフワークの一つである膝周囲骨切り術に代表される『関節温存術』を大きな基軸として関節温存・スポーツ整形外科センターを立ち上げ、2021年には年間施行骨切り術数で日本一となりました。安易に傷んだ部分を取り換えるのではなく、様々な修復・再建・再生療法を駆使して自身の関節を温存し、スポーツへの復帰をも視野に入れた『人生から「やりたいこと」を奪わない』最小侵襲手術を目指すのが当センターの方針です。そこで今回の一つ目のテーマを ①『温存する』 という最小侵襲 に決定いたしました。われわれは多くの人工関節置換術も行っており、置換術を否定しているわけではありません。『関節温存術』の適切なタイミングを逃した症例に対して、適切な置換術を行って明るい未来を温存できれば、それはその患者様の人生にとっては最小侵襲で最大限の効果を得たものになると考えます。このような広い視点に立った温存術を議論することが、第30回記念大会の大きな目的です。

もう一つの大きなテーマが  ②『多職種で構築する最小侵襲』です。例えばこれまで1時間半を要した手術も、手術室看護師の意識向上と技術向上を徹底すれば、1時間の手術に短縮できるかもしれません。あるいは、放射線技師が一瞬で見たい術野をモニターの真ん中に映し出す技術を習得すれば、透視時間を激減できるでしょう。また同じ手術が行われても、術後のリハビリテーションにおけるリスクを最小限にし、効果を最大限にする工夫をすれば、術後の侵襲の低減が実現できるでしょう。本学会では、医師の出来ることには限界があり、周囲のメディカルスタッフの方々を含んだ「チームとしての力」を最大限に発揮することで、いかに手術侵襲を小さくするかを議論したいと考えております。多職種が手を取り合って良い成績を出せるチーム医療をいかに構築するかは、整形外科のみならず、これからの医療界全体が本気で取り組んでいくべき課題と言えます。

今回の学術集会においては上記テーマを踏まえ、従来のいわゆる低侵襲手術や鏡視下手術のみならず、様々な温存手術に関するシンポジウムや多職種の皆様の実技参加型セミナー等も予定しております。是非とも医師のみならず多数のメディカルスタッフの皆々様にもご参加いただき、温泉宿で参加者が相互に交流を深め、地域をまたいだ多職種協働・多地域協働の『温存型』最小侵襲の輪が広がっていくことを心より願っております。